表現したい料理を
探求するために独立
長年いろんなお店で働かせていただいた中で、さまざまな葛藤がありました。たとえばパスタひとつとっても、働いているお店の方針に沿って作ることになります。経験を積むにつれて「こういう味付けにしてみるとどうだろう」と自分で試してみたい気持ちが増していき、自分なりの表現をしたいと独立することを決めました。
もうひとつ、今後飲食店で働く若者や次の世代の人たちに、憧れを持ってもらえるような環境をどう整えるのか、若手の育成をどうしていくのか、自分で挑戦したい気持ちがありました。
料理の世界は下積みも長く大変ですが、努力をすれば雑誌やメディアに出ることもできます。自分が落合努シェフや片岡護シェフに憧れてこの業界に入ったように「がんばればこうなれるんだ」という道を後進に示していきたいですね。
私はイタリア料理を長年やってきたので、イタリア料理の技法や考え方、食材の扱い方が根底にあります。そこに日本の旬の食材や調味料を使うなど、季節を楽しんでいただくためのアレンジを加えて料理を表現しています。
たとえば春の季節なら、アスパラガスや春キャベツ、しらすなどを使ったメニューです。またボンゴレビアンコを作るときに素材のアサリが北海道産であれば、白ワインではなく北海道産の日本酒を合わせてみるなど、産地によって組み合わせを工夫することもあります。
ただ、あくまでもイタリア料理から外れないように「イタリア人だったらどうするだろう」と考えながら、何かしらイタリアの要素を入れながら料理を作っています。
地方料理に学ぶ、その土地その季節の「旬」
イタリアは国の形も細長くてなんとなく日本と似ているせいか、料理の考え方も近いところがあるんです。
特徴的なのは、日本料理もイタリア料理も、それぞれ地方の料理の集まりということ。沖縄なら沖縄料理があって、東京なら東京の料理があります。イタリアも同じで、トスカーナ料理やシチリア料理などの地域の料理が集まったものがイタリア料理ですよね。
またどちらの国も四季があり、季節ごとの食材を使って料理をするところも似ています。
さらに家庭ごとにも料理の味は違いますよね。お雑煮であれば、餅の形が丸なのか四角なのか、味付けは醤油なのか味噌なのか。具材も家庭によって変わってきます。
イタリアでもトマトソースのトマトはフレッシュなのか缶詰なのか違いますし、バターを入れる家庭もあります。ひとつの料理にもこれだけ幅があることに、料理のおもしろさと奥深さを感じています。
私はいろんな料理の表現に挑戦してみたいという思いが強いです。ひとつしか知らないよりも、いろんな土地の料理を知っていたほうが、シチュエーションやお客さまの好みに対応できます。
たとえばトマトソースのパスタを提供する場合も、バターが好きな方にはバターを多めに、フレッシュトマトが好きな方にはバジリコを加えた風味のあるものもいいかもしれません。
「日本料理」や「イタリア料理」を入り口に、いろんな土地の旬の食材や料理のエッセンスを取り入れることで表現の幅は広がっていきますし、これからもチャレンジしていきたいところです。
野菜は知り合いの有機農家さんにお願いしています。たとえばイタリアのククッツァ・ロンガというズッキーニは、ツルの部分がミネストローネの具材になるのですが、日本で作っている農家さんはほとんどいません。なので「こういう野菜を作れませんか?」と相談をして、特別に作っていただくこともあります。
ときどき畑にも行くのですが、やはり野菜がどんな環境で育っているのかを見たり、実際に手に取ったりすることで、料理のインスピレーションが湧いてきます。ただ注文して送られてきた野菜を使うのではなく、一緒に素材を作れるような関係の農家さんを、今後も増やしていきたいですね。
コース料理の締めには、
こだわりのエスプレッソを
イタリア料理の締めには、ぜひエスプレッソを飲んでいただきたいですね。ラテやコーヒーもいいのですが、最後に濃いエスプレッソをキュッと飲むのがおすすめです。
個人的なエスプレッソの楽しみ方は、砂糖を山盛り入れて飲んだあとに、溶けずにカップの底に溜まった砂糖をティースプーンで食べることです。 若い頃に先輩シェフに教わった飲み方です。
そうですね。とはいえ私もお店をオープンしたときは慌ただしく、コーヒーの重要性をわかっていても、料理に集中するあまり二の次になっていました。
私自身コーヒーが好きなので毎日お店で飲むのですが、やはりおいしいコーヒーを飲みたいですし、お客さまにも提供したいという思いがだんだん募っていたところ、ご縁があって『Largo』を取り扱うことになりました。
それまではイタリアの豆を使っていたのですが、はじめて『Largo』を飲んだときは本当においしくて、豆が違うだけで、こんなにも違うんだと驚きました。全自動コーヒーマシンからセミオートエスプレッソマシンに変えたため、抽出にひと手前はかかりますが、やはりイタリア料理なのでコーヒーにも手をかけるべきだなと、導入を決断しました。
UCC独自のバリスタ認定制度「The Great Barista of Largo 〜達人のコーヒーが飲める店〜」で改めてエスプレッソの淹れ方を学べたり、わからないことがあっても問い合わせるとすぐにご回答をいただけたりと、サポート体制がしっかりされているので助かっています。
お客さまにも「おいしくなったね」と言っていただきました。コーヒー豆を『Largo』に変えてから、最後のコーヒーを残すお客さまも減ったと感じます。料理と一緒で、お皿が返ってきたときに飲み残しがあるのとないのとでは印象も違いますし、最後までコース料理を楽しんでいただけるのはうれしいですね。